夢のつづき

ほら、起きろ、託生。起きないと、朝飯抜きだぞ。たあ、くう、みぃーくん。朝だぞ!

朝のヌクヌクしたお布団の中から、抜け出すのは至難の業だ。

しかも、今日はお休みで、外は昨日から雪が降っている寒い朝。

祠堂の冬は寒い。

ふたりだけの305号室。

おーい。起きて朝ご飯一緒に食べようぜ

ギイがぼくを起こそうとゆらゆらと揺らす。

うーん。もう少し。もう少し眠らせて

ぼくは布団を持ち上げて顔まですっぽり被って抵抗を試みる。

寝坊助、休みは永遠じゃないんだぞ。刻と時間は過ぎていくんだぞ

ギイがぼくの布団を捲ってぼくの顔を覗き込んだ。

ギイ、寒い

そりゃ、冬だから寒いよ

そう言ってぼくにキスをする。

起きろよ。出かける約束してだろう

雪が積もってバスも遅れるから出掛けたくない。今日はこのまま部屋にいようよ

寒くて我慢できなかったぼくはギイのおでこに自分のおでこをくっつけて言ってみた。

一緒にゴロゴロしよう

ギイはクスクス笑ってぼくがほんの少し捲った布団に入り込んできた。

まさか、このまま寝ちまうつもりじゃないだろうな

と、ぼくを抱きしめる。

ギイ、冷たい

部屋の冷気に冷えてるシャツがぼくを冷やした。

直ぐに暖まるさ。それで、どうするつもりなんだ

ギイはギュウッとぼくを抱きしめる。抱きしめられて、ぼくの顔がギイの肩にくっ付いた。

うーん。ギイの匂い。夢じゃないよね

甘いギイのコロンと匂いにぼくはうっとりしながら呟いた。

俺の匂いがどうしたんだ?

ぼくの髪に顔を埋めてギイが訊く。

夢じゃないよね。現実のギイだなって

ぼくはさっきまでの夢心地で言った。

ちゃんと此処にいるよね

託生?

ギイは目が覚めたようにハッキリとぼくの事を呼んだ。

どうした?悪い夢でも見たのか?

うーん、どっちかと言うと、今が夢みたい

ホカホカの布団の中で、ほっこりと暖まって来たギイの体温がカイロのようで暖かい。ぼくはギイの胸に顔を埋めて言った。

だって、こんな辺鄙な学校で絶世の美青年で賢い同級生と恋人だなんて夢みたい

へー。そうか、俺もお前と此処で恋人になれた事が夢のようだ

ぼくの耳に囁くと不埒な手がぼくのパジャマの中に入り込んで来る。

うん、夢みるんだよ。ぼく、祠堂に入ってもギイはいなくて、人に触られるのが怖いままで、ずっと嫌われ者のままの夢

そうなのか?

そのまま学校で問題ばかり起こして学校をやめさせられて、家に閉じこもって生きてるんだ

多分、ギイに出会わなかったらきっとそうなってた。

ギイがぼくを探さなかったらぼくはあのまま自分も兄も両親も嫌いなまま、ただの病気な惨めな人間だ。

だから、今が夢のようぼくの呟きにギイも同意するように、

そうだな。今が夢のようだなと、言った。

そうして、ギイは何かを思い出したように呟く。

俺は、お前に会わなかったら、きっと色の無い毎日だったよ。つまんない毎日に忙殺されていた

その時、ギイは思い出してたんだ。

奈良先輩に言った言葉。

ここは夢の世界だから、ここにいる間しか見れられない夢だから、オレは精一杯、その甘さをむさぼることにしているんです

これが夢だったら、ずっと夢見て居ようぜ。ずーと、夢のつづきをしようギイは何かを思うようにぼくをギュウッと抱きしめて言った。

うん。ずっと夢を続けよう

ヌクヌクのベッドの中でぼく達は夢見がちに誓い合った。

ずうーと、ずっと、夢の中で。

ずうーと、ずっと、一緒にいよう。

でも、ギイは雪合戦しようぜとやって来同級生に呼び出されて部屋を出て行った。

寒いのによくやるよ

部屋の窓から、雪玉を投げ合って遊ぶ同級生を眺めながらぼくは呟いた。

楽しそうなギイ。

ギイにとって、ここは夢の世界。

でも、ぼくにとってもここは夢の世界だ。

いつまでも、この夢の世界が続きますように。